痔の原因、イボ痔、切れ痔、痔ろうの予防法

痔は、肛門とその周辺の疾患をいう言葉です。痔核(イボ痔)、裂肛(切れ痔)、痔ろう(あな痔)がほとんどを占めます。出血、痛み、かゆみのほか、内痔核が脱出して戻らない脱肛や、外痔核に血栓ができて痛む血栓性外痔核など、さまざまな症状があります。

痔の原因

痔は日常生活と深く関係した病気だといえます。

  • 毎日の排便は規則正しくできているか
  • 便意を感じたらすぐに排便できているか
  • 消化のいい食事を心がけているか
  • 食物繊維を摂取しているか
  • アルコールや刺激物で消化管に負担をかけていないか

など、生活習慣を確認してみましょう。生活の乱れから痔を発症したり、悪化させたりすることも多いようです。

きっかけは排便異常

なかでも便秘や下痢といった排便異常が痔の原因となっていることが多いようです。
便秘の硬い便を排便する際に息んだり力んだりすることで肛門の皮膚が破れて裂肛を起こしたり、うっ血を起こして腫れてイボができたりします。
下痢で排便の回数が増えたりすることで歯状線の肛門小窩に細菌が侵入しやすくなって、肛門周囲膿瘍になり、痔瘻になったりします。下痢で排便回数が増えると痔が悪化したりもします。

不健全な食生活

健全な排便のためには健全な食生活が大事になってきます。
とくに食物繊維は腸内で水分を吸収して便の量を増やし、腸の蠕動運動を高めてくれます。また、朝食が胃に入ることで眠っていた腸が動き出す胃結腸反射が起こってスムーズな排便を促します。
一方、食べ過ぎや偏食、アルコールや香辛料の取り過ぎは肛門を刺激したり下痢を招きやすくしたりして、肛門のうっ血の原因となって痔のリスクを高めます。

同じ姿勢を取り続けるのはキケン

座りっぱなしの仕事も立ちっぱなしの仕事もおしりへの負担が大きく、痔のリスクは高まります。
痔は肛門周囲の血行不良が原因となることが多く、長距離運手やデスクワークが続くような職業の方は注意が必要です。逆に調理師、美容師などのように立ちっぱなしの方も腹圧がかかることが多く、おしりがうっ血しやすくなります。
また、重いものを頻繁に持ち上げたり運んだりする方も肛門の圧迫でうっ血しやすくなり、痔のリスクが高まります。

運動不足や冷え、ストレスによる血行不良

痔のリスクを高めるのは肛門周辺の血行不良です。冷えや運動不足は血行不良を招きやすくします。また、ストレスで自律神経が乱れることも肛門周辺の血行不良につながります。

肛門部の不衛生

排便時の拭き残しなど不清潔な状態でいると炎症から痔へとつながっていくことがあります。また、かゆみを感じたりすると引っ掻くことで肛門を傷つけ、炎症を引き起こすこともあります。また、かゆみは残便がある場合にも感じます。できるだけ出し切るように心がけましょう。

妊娠や出産による肛門の圧迫

妊娠中には大きくなった子宮によって肛門が圧迫を受けたり、骨盤内がうっ血しやすくなっていたりして血行不良が起きやすく、痔のリスクが高まります。出産時には強く息むために痔を発症させたり、悪化させたりします。

痔の種類

痔は、患部の状態の違いから大きく裂肛(切れ痔、裂け痔)、痔核(イボ痔)、痔瘻(あな痔)の3つに分けられ、これらが肛門疾患の9割を占めています。この3つと、痔瘻の前段階である肛門周囲膿瘍、とくに痔の症状はないのだけれどかゆみを感じる肛門掻痒症について解説します。

裂肛(切れ痔、裂け痔)

文字通り肛門の皮膚が裂けている状態です。原因は硬い便との摩擦です。便秘などで硬い便の状態が続いたりすると傷が深くなり、激しい痛みを感じます。おしりを拭くとトイレットペーパーに血の跡がついたりします。排便のたびに激しい痛みと出血を見るため排便を我慢してしまうこともあり、その結果、便秘気味になって硬い便で肛門壁を再三傷つけ、症状を長引かせることにもつながります。

痔核(いぼ痔)

直腸(粘膜)と肛門(皮膚)のつなぎ目を歯状線といいます。この周辺には静脈叢といって毛細血管が集まっています。この血管がうっ血(静脈の血が滞って溜まる状態)するために膨らんでイボ状の塊になったのが痔核です。粘膜側にできるものを内痔核、皮膚側にできるものを外痔核といいます。
粘膜側には知覚神経が通っていないため内痔核はほとんど痛みを感じることはありませんが、便との摩擦で痔核が破れて出血をすることがあります。痔核は血管とつながっているために便器に鮮血がぼたぼたと落ちるくらい大量に出血することがあります。症状が進むと内痔核は肛門の外に出てきて戻せなくなることがあります。
外痔核は知覚神経のある皮膚にできるため激しい痛みを感じます。

肛門周囲膿瘍

歯状線にはデコボコした肛門小窩というくぼみが複数あります。ここに細菌が侵入して炎症が起こり、膿が溜まった状態です。膿はやがて皮膚を破って外に流れ出します。膿が流れでた後のトンネル(瘻管)が痔瘻になっていきます。
肛門周囲にしこりや腫れが出てきて、熱くヒリヒリするような痛みを感じ、時には40℃にもなる高熱や悪寒、吐き気などの症状を伴うことがあります。

痔ろう(あな痔)

肛門周囲膿瘍の膿が流れ出た通り道のトンネル(瘻管)が肛門の周囲に残るのがあな痔といわれる痔瘻です。膿が溜まると肛門周囲膿瘍の症状が出ます。膿が出てしまうと症状は楽になりますが、炎症を起こして再び膿が溜まることを繰り返します。自然に治ることはありません。肛門周辺にしこりがある、押すと膿が出て下着が汚れるなど不愉快な状態が続きます。

肛門掻痒(そうよう)症

とくに発疹などはないにもかかわらず肛門周辺にかゆみを感じ、掻いたり擦ったりすることで二次的に湿疹ができてかゆみが続くものです。
肛門の周囲がモゾモゾしたら、直接あるいは服や下着の上から掻いたり、排便の際にトイレットペーパーで強く擦ってみたり、温水洗浄シャワーを長く強く当ててみたり、お風呂でゴシゴシ洗ったりしますよね。かゆみは我慢できないですね。でも、これによって湿疹ができ、かゆみが増してしまうのが肛門掻痒症です。
そもそもの原因は便の付着など、肛門周辺が不衛生であることです。痔の影響で粘膜からの分泌液が付着したり、残留している便が刺激となってかゆみを感じたりするなど、さまざまな原因が挙げられています。糖尿病、肝臓病、腎臓病などの慢性疾患や、精神的なストレスが原因となることもあるようです。

日常生活でできる予防法

排便のリズムをつくる

痔のきっかけは便秘や下痢の排便異常です。排便異常を起こさないためには定期的な排便リズムが大切です。朝は便意を感じやすい時間帯といわれています。身支度に忙しく、朝の排便を後回しにすると排便リズムが崩れ、便意を感じにくくなってしまうこともあります。

食生活を改善する

排便リズムの確保には食生活、とくに朝食が大事です。朝食は消化管の活動開始のスイッチですから、きちんと朝食を摂りましょう。栄養的に偏らない食事を腹八分目で摂ることが大切です。とくに痔の予防、腸の健康の観点では、食物繊維を意識して多く摂りましょう。腸の蠕動運動を高め、スムーズな排便へつながります。
暴飲暴食やアルコールの過剰な摂取は胃腸に大きな負担となり、排便異常の原因ともなって痔のリスクを高めます。

同じ姿勢を続けない

仕事柄、座りっぱなし、立ちっぱなしになりがちな場合には、適宜休憩時間を取って体勢を変えるように心がけましょう。休憩時間に身体を伸ばしたり、屈伸運動をしたり、少しでも歩き回ったりすることで下半身の血行不良を予防し、肛門回りのうっ血を予防することが大事です。

腰回りを冷やさない

腰回り、下半身が冷えることで血行が悪くなりますので、注意が必要です。冷えやすい服装や過度の冷房などにも気をつけましょう。血行を改善するために入浴時にはゆっくりとお湯に浸かることは有効です。

適度な運動

適度な運動は全身の血行を促すのに効果的です。激しいスポーツでなくてもいいので、ウォーキングやジョギングなどの軽い運動の習慣を持つことが大切です。また、便秘の解消には腹筋運動が有効だといわれています。

ストレス解消を心がける

ストレスによる自律神経の乱れを解消するには、テレビを観たりお風呂を楽しんだりと、できるだけゆったりとした時間を過ごすことです。また趣味に没頭したり自分の好きなことを楽しんだりすることが重要です。また、休日には旅行などで気分転換をはかるのも効果的です。

温水洗浄トイレを正しく使う

肛門を清潔に保つのに温水洗浄トイレは最適です。トイレットペーパーでは汚れが落ちなかったり、強く拭いてしまってかえって肛門を傷つけてしまったりしますので、温水シャワーでの洗浄はとても有効です。
しかし、誤った使い方によって、かえって痔を悪化させてしまうこともありますので注意が必要です。
まず、強い水圧で温水シャワーを肛門に当ててはいけません。水圧によって肛門の粘膜がただれたり、炎症がひどくなったりします。また、肛門を少し開いて温水シャワーを入れる方もいるようです。これは絶対にやめましょう。水圧の刺激がないと便意が起こらないシャワートイレ症候群になるリスクが高くなります。

痔を悪化させない対処法

裂肛のケア

原因となる便秘の改善がポイントです。痛みのために排便自体を我慢してしまうと便秘が進んでさらに事態は悪化します。便意は我慢せず、5分以上は力まない習慣をつけましょう。排便後に痛みが続くようであれば、肛門周辺を温めると楽になります。

痔核のケア

肛門の周りを清潔に保ち、血行をよくすることが一番のケアです。38〜40℃くらいのお湯にゆっくりと浸かり、温かなシャワーを浴びたりしておしりを温めましょう。
適度な運動を習慣にして身体を動かすようにしましょう。買いものなどはできるだけ歩いて行く、エスカレーター、エレベーターはなるべく使わないといった習慣化が大切です。

痔ろうのケア

痔瘻は膿が出たり、膿の通り道(瘻管)がしこったりして痛みますので、氷や冷却シートで冷やすと痛みが和らぎます。
痔瘻の場合には膿でおしりが汚れたりしますので、排便後は温水洗浄トイレできれいに洗い流す、入浴時にきれいにしておくなど清潔を保つことが大事です。また、座浴もおすすめです。ぬるま湯を張った洗面器などにおしりをつけ、柔らかなガーゼなどで優しく洗います。
極力下痢をしないように食生活にも気を配りましょう。アルコールの過度の摂取も避けたほうがいいでしょう。十分に睡眠を取ってストレスを溜めないことも重要です。

専門医を受診する

裂肛や痔核は、軽症であっても排便のたびに不快感を感じますし、痛みや出血から健全な排便ができなくなったりします。その結果、便秘が進んだりして痔が悪化するようなことがあります。たびたび出血するような場合や、痛みが激しい場合には、肛門科を受診して適切な治療を受けましょう。
肛門周囲膿瘍や痔ろうは自然に治ることはありませんので、早めに肛門科を受診することをおすすめします。

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