みぞおちは、外から衝撃を受けると呼吸困難に陥るなど、生命にかかわる急所のひとつとして知られていますが、体内の異変でみぞおちが痛む場合には、食あたりなどの胃腸の異常のほか、胆嚢、膵臓、心臓など腹部や胸部の臓器の異常など幅広い疾患が考えられるため、症状を確認した上で早めに医療機関を受診することが大切です。
みぞおちが痛む原因
食生活の乱れ
食べ過ぎや飲み過ぎなど暴飲暴食といわれるような食事は胃腸に大きな負担をかけ、胃酸の分泌が過多になって粘膜を傷つけたりして、みぞおちあたりが胸焼けするように痛んだり、ときにはキリキリと差し込むような痛みを感じたりすることがあります。
アルコールの過剰摂取やタバコの吸い過ぎ、香辛料など刺激物の過剰摂取なども、みぞおちの痛みを誘発することがあります。
ストレスによる痛み
自律神経は、すべての内臓、血管や分泌腺を支配し、これらの働きをコントロールし、体内の環境を整える働きをしています。ストレスはこの自律神経に乱れを生じさせ、過剰に分泌された胃酸が粘膜を傷つけたりして、みぞおちの痛みが出ることがあります。
ストレスは精神的なものだけでなく、寒暖差など環境的、身体的なストレスも自律神経に作用することがあります。季節の変わり目の過ごし方やエアコンの使い方などに注意が必要です。
食あたり
食あたり、水あたりでみぞおちに激しい痛みを感じることがあります。とくに、海外へ出掛けた際には注意が必要です。海外の硬水にはマグネシウムが多く含まれているものが多く、日本人は下痢を起こしやすいといわれています。慣れない海外では安心できる市販のミネラルウォーターを飲むようにしましょう。
みぞおち痛を伴う疾患
おもなものは胃腸の疾患です。胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎など、胃酸の過剰な分泌が原因となる疾患が挙げられます。また、虫垂炎(盲腸)の初期症状として、みぞおち痛があることが知られています。その後、右下腹部に痛みが移動します。
その他、急性膵炎、心筋梗塞、肺炎など、重篤になるリスクが高い疾患も多く含まれています。
急性胃炎
暴飲暴食、食あたり、食中毒、ストレスのほか、ピロリ菌やウイルスなど、さまざまな原因で胃の粘膜に炎症が起きている状態です。みぞおちがキリキリと痛み、吐き気や下痢を伴います。重篤な場合には吐血、下血を見ることもあります。2、3日の安静で治まることも多いのですが、なるべく早めに医師の診断を受けることをおすすめします。
神経性胃炎
自律神経のバランスの崩れから起こる胃炎です。みぞおちが痛み、胸焼けを感じ、気分が塞ぐ、のどがつかえるなどの症状があります。精神的なストレスや過労が原因となります。仕事や人間関係からくるストレスや、最近ではスマートフォンや情報端末がないと不安になってしまうテクノ依存症などが原因となる神経性胃炎もあるようです。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍
ストレスやピロリ菌、ステロイド薬、非ステロイド性消炎鎮痛剤などによって胃や十二指腸の粘膜が傷つくことがきっかけとなって、強い胃酸や消化酵素よって粘膜表面や筋層組織が消化され欠損してしまう病気です。粘膜を守る作用と胃酸などの消化作用のバランスが崩れることで起こります。みぞおち周辺にズキズキとした重苦しい痛みを感じ、胸焼け食欲不振などとともに、吐き気を感じます。
胃カメラについて詳しくは >
食中毒
食中毒は食品を汚染している細菌やその毒素によって起こります。代表的なものがカンピロバクター(食肉、飲料水)、O-157(生肉、その他多数)、サルモネラ菌(鶏卵、鶏肉)、腸炎ビブリオ菌(魚介類)、黄色ブドウ球菌(人の化膿創など)、ノロウイルス(汚染された二枚貝)などによる中毒です。ふぐや毒キノコ、ジャガイモの芽などの自然毒もあります。
食中毒を起こすと、急激にみぞおち周辺に痛みを感じ、吐き気や嘔吐、下痢、発熱などの症状を呈します。
胆石症
胆汁が固まってできた胆石が胆管に詰まると、みぞおちを中心に出る疝痛(引いては繰り返す激しい痛み)が特徴的で、右肩や背中の痛みを伴うことがあります。しばしば吐き気や嘔吐、発熱、下痢を伴います。胆管が塞がると胆嚢炎や胆管炎を発症し、皮膚や白目部分が黄色くなる黄疸や肝機能異常の症状が出ます。
急性膵炎
膵臓が分泌する消化酵素が膵臓自身を溶かしてしまうことで起こります。原因の第一は飲酒、次に胆石です。初期症状では軽い胃痛のような痛みを感じますが、時間経過とともにみぞおちを中心とした刺すような痛みが襲ってきます。痛みは急速に腹部全体に広がり、うずくまるほどの激痛となります。
心筋梗塞
心臓表面を取り巻くように走る冠動脈に血栓が詰まって血流が滞る疾患です。心筋が壊死して死に至ることもあります。突然、胸やみぞおちに激痛が走り、冷や汗が出て、呼吸困難に陥ります。心筋梗塞の直接原因は動脈硬化で、高血圧、高脂血症、糖尿病の生活習慣病、喫煙や肥満、不規則な食生活、運動不足などが重なることで発症のリスクが高まります。
日常生活でできる予防法
日常生活に潜む原因は食生活の乱れ、食あたり、ストレスです。これらの原因をなるべく遠ざけることが、日頃からの予防法の中心となります。
規則正しい食生活
胃腸に負担をかけないことが第一です。そのためには規則正しい食事と、適量の食事(いわゆる腹八分目)、そして栄養の偏りのない食事を心がけましょう。とくに朝食は大事です。胃結腸反射といって、朝食が胃に入ることで眠っていた腸が動き出し、便が直腸に運ばれて便意を覚えます。胃腸のスムーズなスタートに欠かせません。
アルコールは適量であれば問題ありませんが、過度の飲酒は胃腸に負担をかけ、さまざまな病気のリスクを高めますので注意が必要です。
食品の鮮度、生水に注意
食あたりを避けるには、日頃から食品の鮮度に気をつけ、適切な保管をこころがけることです。また調理器具の衛生にも注意を払いましょう。また、とくに海外に行った際には、生水は避けましょう。殺菌されていない果汁や、飲料に入っている氷なども案外盲点となります。市販のミネラルウォーターでも硬水は合わないことがあります。
ピロリ菌の除菌
胃がんリスクを高めるといわれているピロリ菌ですが、胃粘膜に感染して慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、ポリープなどの原因となるといわれています。ピロリ菌の感染検査は内視鏡を使うもの、血中の抗体を調べるもの、試薬を服用して呼気を調べるものなどいくつかの方法があります。具体的な方法については医療機関にお尋ねください。ピロリ菌が見つかった場合、抗菌薬を7日間ほど服用することで除菌することができます。
みぞおちが痛む場合の対処法
医療機関を受診する
みぞおちが痛むケースでは軽い胃炎や食あたりのケースもありますが、心臓や肺、膵臓、肝臓などの重い疾患であることも否定できません。痛みが長く続いたり激しく痛んだりするときには、まずはかかりつけの医師に相談してください。みぞおち痛の原因疾患は消化器のほか心臓、肺などさまざまな臓器にかかわっています。ストレスが強いようなケースでは、心療内科にかかわる病気であるかもしれません。原因によってそれぞれの疾患の専門医を受診することをおすすめします。